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名古屋地方裁判所 昭和60年(ワ)2159号 判決

原告

野田寿満子

右訴訟代理人弁護士

後藤和男

酒井廣幸

被告

鹿島商事株式会社

右代表者代表取締役

桐畑幹雄

被告

桐畑幹雄

被告

林洋由

右訴訟代理人弁護士

大道寺徹也

被告

藪内博

主文

一  被告らは、各自原告に対して金九八万円及びこれに対する被告鹿島商事株式会社、被告桐畑幹雄については昭和六〇年一〇月六日から、被告林洋由については同年一〇月四日から、被告藪内博については同年七月三〇日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを六分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決の第一項に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は「被告らは、各自原告に対し金一二〇万円及びこれに対する主文第一項記載の日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

第一  当事者

一  原告は、肩書住所地において独りで年金生活をしている満七六歳になる女性であり、ゴルフの経験もなく、ゴルフには全く関心のない者である。

二(一)  被告鹿島商事株式会社(以下、「被告鹿島商事」という。)は、昭和五九年八月一〇日、ゴルフ会員権の販売等を目的として設立登記された株式会社であるが、「純金ファミリー契約」等により所謂金地金(現物まがい)商法で全国各地の老人を中心に被害を多発させている訴外豊田商事株式会社(以下、「豊田商事」という。)の系列会社である。

(二)  被告桐畑幹雄は、鹿島商事の代表取締役として同社を統括する責任者であり、被告林洋由は、鹿島商事名古屋支店の営業部主任である。

三(一)  分離前の被告株式会社豊田ゴルフクラブ(以下、「豊田ゴルフクラブ」という。)は、昭和五九年八月二五日、ゴルフ場の建設等を目的として設立登記された株式会社であり、前記豊田商事の子会社である。

(二)  被告藪内博は、豊田ゴルフクラブの代表取締役として、同社を統括する責任者である他、豊田商事の取締役でもある。

第二  被告らの違法行為

一(一)  原告は、昭和六〇年四月二日、鹿島商事の女性社員より電話を受け、「今日、遊びに行つてもいいですか。」と訪ねられた。一人暮らしで毎日寂しい生活を送つていた原告は、深く相手を疑うことなく軽い気持ちでこれを承知したところ、程なくして同社の営業主任である被告林洋由と氏名不詳の女性社員がケーキを持つて原告宅を訪れた。

そして、「今日は天気がいいから御花見にでも行きませんか。」と誘われたので、原告は、何となくこれに応じて同人らと中区にある護国神社まで出向いた。ところが、その帰途、原告は、同人らに近くにある鹿島商事名古屋支店に連れて行かれ、「一年間銀行に預ける代わりに当社にお金を預けてみませんか。」と持ち掛けられた。

(二)  原告は、言われる意味は全然理解できなかつたが、見ず知らずの自分に対してここまで親切にしてくれる人の言うことならば大丈夫だろうと思い、深く考えることなくこれに応ずることとした。そして、原告は、同人らと共に大垣共立銀行西山支店へ赴き、定期預金を担保にして金一〇〇万円を借りて、これを同人らに手渡した。すると、同人らは、契約書等を取り出して、署名押印を求めたので、原告は言われるままにこれらに署名押印した。

(三)  これら一連の事実は、後日、原告の息子が不審に思い原告に詳しく尋ねたことにより明らかになつたもので、しかも息子が契約書類を読み聞かせてはじめて、原告は、自分が豊田ゴルフクラブの代理人である鹿島商事から豊田ゴルフクラブのゴルフ会員権を金一〇〇万円で買わされ、しかもそれを豊田ゴルフクラブに賃貸したことになつていることを知らされたのである。

二  ところで、原告が訳のわからないまま買つたことになつている豊田ゴルフクラブ会員権は、将来は全国に三〇コース造成されるので値上がりは確実で、しかもいつでも換金できる等として有利な利殖手段であると宣伝されているが、真実は、そのようなゴルフ場ができる見通しも無ければ流通する市場もなく、従つて換金性も全く無いものであり、また契約上出資金の償還が保証されていないため別途「オーナーズ契約」と組み合わせることによつて辛うじて一〇年後に元金の一二〇パーセントが戻つてくるにすぎないという疑問だらけの欠陥商品である。

しかも、鹿島商事、豊田ゴルフクラブの両会社が今後一〇年間支払能力を維持しうるとの保証は全くない。なぜなら、両会社とも、前記豊田商事の子会社で、豊田商事はその欺瞞的商法のため、既に行き詰まり破産宣告をうけており連鎖倒産は必至である。本件ゴルフ会員権自体、豊田商事が欺瞞的商法に用いている「金地金」を単に「ゴルフ会員権」にひきなおしたにすぎないものであつて、要するに、大衆、とりわけ老人などの判断力の十分でない弱者から金員を収奪することを目的としたものである。

右のように被告らは、独り暮らしの寂しい老人をねらつて、契約内容を正確に告知しないまま、あたかも預金と同じであるかのように告げ、その誤信に乗じて契約書類を作成せしめ、全く無価値かつペーパのみのゴルフ会員権を販売し、その販売代金名下に金員の交付を受けたものである。

第三  責任

一  被告桐畑幹雄、被告藪内博はそれぞれ、鹿島商事又は豊田ゴルフクラブの代表取締役としてその経営全般を指揮統括する地位にあるところ、このような違法な商法を行えば、社員をして原告に対し損害を発生させることを知りながら前記商法を企画・実施し、原告に損害をこうむらせたのである。また、被告林洋由も右事情を熟知して原告を実際に勧誘したものである。従つて、それぞれ鹿島商事、豊田ゴルフクラブとともに、民法第七〇九条、同第七一九条に基づく責任があり、鹿島商事、豊田ゴルフクラブには、予備的に民法第四四条第一項または第七一五条第一項に基づく責任がある。

第四  損害

一  原告は、前記の通り被告らの欺瞞的商法により金一〇〇万円を詐取された。

二  原告は、老人であり、信頼していた者に信頼を裏切られ、人間不信に陥つたことの精神的苦痛は計り知れないものがあり、その慰謝料は金一〇万円が相当である。

三  弁護士費用

原告は、原告訴訟代理人に本件損害賠償請求手続を依頼し、その弁護士費用として右損害合計額の約一割に相当する金一〇万円を支払う旨約束した。

第五  結論

よつて、原告は被告に対し、第四記載の損害合計額金一二〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

被告林洋由訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁及び主張として次のとおり述べた。

1  請求原因第一の一ないし三については不知、但し二(二)の被告林が被告鹿島商事名古屋支店の主任であつたことは認める。

2  同第二の事実のうち被告林が原告宅を訪ね、原告と共に護国神社に出向いたこと、及び鹿島商事名古屋支店に同行したこと、原告と共に大垣共立銀行西山支店に同行したこと、金一〇〇万円を受取つたこと、原告に契約書に署名押印を求めたことは認める。その余の事実は不知ないし争う。

3  同第三のうち被告林が被告鹿島商事、豊田ゴルフクラブの商法等を熟知して勤務していたことは否認する。

4  同第四については否認する。

5  被告の主張

(一)  被告林が被告鹿島商事へ入社したのは、昭和五九年八月三日であり、昭和六〇年六月末日には既に同社を退社している。わずか一〇か月あまりの在社期間で、会社の経営の実態及びその内部の事情等について知らないまま、職務命令により業務をしたにすぎない。

(二)  被告林は、現に豊田ゴルフクラブにおいて一〇コース程度のゴルフ場が運営されており、将来三〇コースに増設されること、パンフレット、契約書面に記載されている内容が真実のものであると信じ、又、将来相当の値上がりが期待されるものと信じて、原告に対し、パンフレット及び契約書面を示し、その内容を説明して本件契約を締結したものである。

(三)  右事情のもとでは被告林は、仮に原告主張の損害が発生したとしても、それを予見し又は予見しうるはずがない。

又、被告林は契約に際し、契約内容を充分に説明した上で署名押印を求めている。

以上により、被告林には故意、過失はない。

被告藪内博は、適式な呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭しないが、その陳述したものとみなされた答弁書により「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め「請求原因事実のうち、被告藪内博が豊田ゴルフクラブの役員であつたことは認めるがその余の事実は否認する。」と述べた。

被告鹿島商事、同桐畑幹雄は公示送達による適式の呼出を受けたが本件口頭弁論期日に出頭しない。

証拠関係〈省略〉

理由

一〈証拠〉を総合すると以下の各事実が認められ、〈証拠〉中右認定に反する部分は採用できず他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

1  豊田ゴルフクラブは、ゴルフ場の建設、運営ゴルフ会員権販売等を目的とし、被告鹿島商事はゴルフ会員権の販売等を目的とする会社であり、右両会社は豊田商事と共に統括会社銀河計画株式会社(以下「銀河計画」という。)の傘下にあるいわゆる豊田商事グループに属し、豊田商事の金地金商法の破綻を回避するために金地金にかえゴルフ会員権を販売するために昭和五九年八月に設立されたものである。被告桐畑は被告鹿島商事の、被告藪内は豊田ゴルフクラブの各代表取締役であり、両名共豊田商事、銀河計画の中枢にあつて取締役等幹部を兼ね豊田商事の金地金商法の企画運営に深く関与し、これが金地金の存在、その償還可能性に疑問が持たれ破綻が必至の状勢となるや、ゴルフ、マリーン、テニス等レジャー会員権等償還の必要性のない商品の販売、賃貸の事業に転換することを企画し、右被告両名はゴルフ会員権販売商法を担う、被告鹿島商事或いは豊田ゴルフクラブの代表取締役に就任し、豊田商事グループ全体及び各社の実状、ゴルフ会員権販売商法の仕組み、これが実質的には金融商品でありゴルフとは無縁の老人、主婦等の勧誘に乗りやすい層の顧客を標的として、償還可能性のないことなどの実質的な金融商品としての欠陥を秘しての詐欺的商法に依存しなければならないこと、従つて右商法が金地金商法同様早晩破綻する可能性のあることも知り得る立場にありながら右各会社の総括責任者として職員を指揮監督して右事業を遂行させていた者である。

2  豊田ゴルフクラブは海外を含め三〇個所のゴルフ場の運営を標榜していたが、売収代金が完済され営業中のものは北海道等交通環境が悪く経営困難なもの三ゴルフ場に過ぎず他は契約済のものは契約代金の一部を支払つて開発途上のものを含め約二〇であるが多額の負債と大量の預託会員が存して経営困難に陥つていたものであり、また、豊田ゴルフクラブはゴルフ場毎の適正利用者数を全く考慮することなく無尽蔵に金融商品として会員権を販売するため会員数と適正利用者数とのバランスが保たれることにはならず、利用権として市場流通性を持つたり会員権の価格が上昇することは考えられない。

被告鹿島商事と豊田ゴルフクラブのゴルフ会員権商法の内容は被告鹿島商事が右豊田ゴルフクラブの運営の全てのゴルフ場の共通利用権としてのゴルフ会員権を一旦顧客に販売したうえ、これを豊田ゴルフクラブが一〇年間にわたり顧客より賃借し毎年一割二分の賃料を顧客に支払うというものであり(「ゴルフクラブオーナーズ契約」と称している。)豊田商事の金地金商法と異り販売、賃貸の目的物が顧客に金員、金地金の返還を要しないゴルフ会員権であることのほかは実質的に金融商品商法であり、会社の機構、人員構成、統括会社との関係、異常に高額な歩合給制、顧客は主に老人、主婦等であること、顧客の勧誘方法等に至るまで豊田商事の商法と同様である。

3  被告林は被告鹿島商事設立と同時に同会社名古屋支店に入社し営業成績抜群のため主任、係長を経て、課長にまで昇進したが、原告との取引時である昭和六〇年四月には係長の地位にあつた。

4  昭和五八年中頃から豊田商事の商法は詐欺的商法であるとしてマスコミに報道が繰り返えされ顧客からの訴訟が頻発していたが、被告鹿島商事、豊田ゴルフクラブについても昭和五九年一〇月頃より週刊誌等に豊田商事系列会社の詐欺的商法としてとり上げられたり、顧客からの損害賠償訴訟の提起、詐欺罪としての告訴の事実が新聞に報導されるようになつた。被告らはいずれも自己の会社の営業に関する記事として関心を持ち右報導内容について知つていたものと考えられる。

5  原告は明治四二年五月生れ(当時満七六年)で独り暮らしの老婦であり、ゴルフには全く無知、無関心であつた。

6  昭和六〇年四月二日午前中被告鹿島商事名古屋支店女子社員は原告に電話をして原告が独り暮しでゴルフオーナーズ契約を締結させることが可能と判断するや直ちに女性営業社員がケーキを持つて原告宅を訪れ原告の孤独をなぐさめる様なことを言つて室内に上りこみ、更に被告林も引き続き同様室内に上りこみ、原告に対し「お母さん」等と甘言をもつて話しかけ、原告が大垣共立銀行西山支店に約一〇〇万円の定期預金を有していることを聞き出した。更に被告林と右女性社員は「天気がいいからお花見にでも行きませんか」と誘つて被告鹿島商事名古屋支店の近くの護国神社付近で花見をさせて原告の歓心を買い、引続き右名古屋支店に原告を連れて行つた。

7  右原告の自宅からの道中及び名古屋支店内において被告林は(右支店内においては課長の奥村と共に)、原告に対し被告鹿島商事が扱つているゴルフ会員権を買つてこれを賃貸することは銀行の定期預金その他の金融商品より利率(賃貸料)が年一二パーセントでまた会員権が値上りが確実であり、有利であるのみならず、期間は一〇年であるがこれは一年毎の契約の更新であり、一年間経過後はいつでも豊田ゴルフクラブが買い取る等して換金することにより元本も確実に償還される安全なものであり換金性も保証されていると言葉巧みに縷々説得し、原告に対し銀行の定期預金を解約してそれよりはるかに安全有利なゴルフクラブオーナーズ契約を締結することを勧めた。原告はそれまでの被告林の親切な言動から被告林の右説明を信じ、賃貸料のほか一年間経過後は確実に元本相当額も償還を受けられるのであれば右契約を締結してもよい気になつた。

しかしながら、右ゴルフクラブオーナーズ契約の内容が銀行預金等と本質的に異るのは賃貸期間(一〇年間)中は当然、右期間経過後も当初の購入代金(元本)を償還せず、ゴルフ会員証のみを返還することを内容とするものであり、豊田商事の金地金商法の金地金の存在、返還問題を回避するために豊田商事、銀河計画の幹部である被告藪内、同桐畑らが関与して考え出されたものである。右契約期間中或いは、右期間終了後豊田ゴルフクラブその他第三者に譲渡売却することも契約上保証されておらず、実際上もそのための市場も換価基準、手数料の明規もなく、譲渡、換価は可能とは考えられないものである。この点に関し、豊田ゴルフクラブ会則八条は「資格取得日より一〇年経過後、会員から申出があれば会社が時価又は額面全額をもつて他に売却斡旋をする。但し、……経営上並びにクラブ発展向上のために必要やむを得ない場合、理事会の決議により売却斡旋の時期を延長する場合がある。」とし、同九条には「会員の利用権は理事会の承認を得て譲渡することができる。」との規定があるが、いかなる場合に右理事会の決議、承認を得られるのかは不明であり、会社側の一存に委ねられており、ゴルフクラブオーナーズ契約書には三条に「本契約の期間は契約成立の日より満一〇年経過後の月末とする。」とし、同六条には「賃貸借期間満了前に本契約を解約するときには会社の定める手続により予告し、当年度分の前払賃借料を返済しなければならない。その後一か月後に会社はゴルフ会員証を返還するものとする。」とし、七条には「本契約期間中ゴルフ会員権を第三者に譲渡してはならない。」とされている。

被告林は右契約担当者として右契約の本質的内容である会員権購入代金(元本)が返還されず、かつ、換価性もないことを説明すべき取引上の義務があるのにことさらにこれを説明せず、かえつて、一年経過後は確実に右購入代金(元本)が償還され換価性があるものであり銀行預金等他の金融商品より安全有利であると誤つた内容の説明をなし、原告をしてその旨誤信させたものである。

8  そこで右同日直ちに被告林は原告を大垣共立銀行西山支店に同道して原告の定期預金を担保に金一〇〇万円を借受けさせ、右銀行内で原告より右金員の交付を受け、再び被告鹿島商事名古屋支店に戻つて、原告が豊田ゴルフクラブに会費一〇〇万円の平日会員として入会し、更に、右ゴルフ会員権を豊田ゴルフクラブに一〇年間賃貸し、賃料として毎年一二パーセントの金員を受取ることを内容とする契約書等に署名、捺印し、豊田ゴルフクラブオーナーズ証券及び一年分の賃料前払分一二万円の交付を受けた。

9  その後約二か月後である昭和六〇年六月二〇日豊田商事は破産申立をされ、同時に破産宣告前の保全処分がなされ倒産し、間もなく統括会社、銀河計画や関連会社の被告鹿島商事、豊田ゴルフクラブも倒産し、支払不能に至つたものである。

二右認定の各事実に基いて被告らの責任について検討する。

1 被告林は独り暮しの原告宅に上りこみ、孤独をなぐさめ花見に同行するなど見せかけの親切行為によつて同被告を信用させ、販売担当者として取引上当然説明すべき義務があるのに銀行預金とは異り金融商品としては決定的に不利な条件である(販売代金)元本が償還されず、換価性のないことをことさらに秘し、一年間経過後は右元本相当額が確実に返還され、銀行預金等より安全有利な金融商品であるものと虚偽の内容を説明して原告をしてその旨誤信させ、ゴルフクラブオーナーズ契約を締結させ、会員権販売代金名下に金一〇〇万円の交付を受けたものであり、右は原告に対する不法行為にあたり、これによつて原告の蒙つた損害を賠償すべき責任がある。

同被告は会社の職務命令に従い業務を遂行したに過ぎず、会社の実態等を知らず、将来ゴルフ会員権が値上がりするものであり、原告が損害を蒙ることはないものと信じていたものであり、パンフレット、契約書面については充分な説明をしている旨主張する。

しかしながら、同被告は販売担当者として当然右契約の本質的内容である償還可能性のないことを知りながら、豊田ゴルフクラブ会則、契約書の内容にも反した内容の説明をしたのであり、右が上司の職務命令に基づく行為としても、上司との共同不法行為が成立するものであり違法性を阻却するものとは考えられず、また元本の償還不能そのものが損害となるものであり、右不能は当初からゴルフオーナーズ契約の内容上自明のことであり、これが予見不能であつたものであるとの主張は採用の限りではない。

2 被告鹿島商事は同被告名古屋支店職員として被告林を雇傭し、被告林は同会社の業務の執行として右1の原告に対する不法行為に及んだのであるから、被告鹿島商事は民法七一五条により被告林の不法行為による原告の損害を賠償すべき責任がある。

3 被告桐畑、同藪内は、豊田商事、銀河計画の中枢にあつて、金地金商法の破綻を回避する意図で被告鹿島商事、豊田ゴルフクラブの設立に関与しゴルフ会員権商法が元本償還義務のないものであり金融商品にしては決定的欠陥があるのにこれを糊塗して銀行預金等他の金融商品より有利、安全確実なものであるが如く老人、主婦等に対し被告林が原告に対して採つた様な詐欺的商法により顧客を獲得せざるを得ないこと、右各会社及び豊田商事グループの実態より早晩右商法が破綻し顧客に損害を及ぼすことを予見し得る立場にありながら、右各会社の代表取締役であり総括責任者として従業員を直接間接指揮監督し原告ら顧客に対する契約を締結させ金員の交付を受けさせていたものであることなど前記認定の事実関係のもとにおいては右被告両名は、民法七〇九条、七一九条、商法二六六条の三の趣旨を類推適用して原告の損害を賠償すべき責任を有するものと解するのを相当と認める。

三そこで原告の損害について検討する。

1  原告は前記認定のとおりゴルフ会員権販売代金名下に金一〇〇万円を支払つたが、同時に賃貸料として金一二万円の交付を受けていることからこれを控除した金八八万円を出捐していることになること。

2  原告が弁護士たる原告訴訟代理人に本訴提起追行を委任し弁護士費用として金一〇万円の支払を約したことは弁論の全趣旨により明らかであり、右金額は本訴の内容、認容額等から被告らに対して請求しうる弁護士費用として相当額の範囲内にあるものと認められる。

3  前記認定の各事実及び本件全証拠によるも原告が財産的損害の賠償によつて回復されない精神的苦痛が存在することについての特段の事情はいまだ認めるに足りず原告主張の慰謝料請求は理由がないものというべきである。

四以上のとおりであつて、原告の本訴請求のうち、被告らに対し不法行為に基づく損害賠償として三1、2の合計金九八万円及びこれに対する不法行為の後であり被告らに対する各訴状送達の日の翌日たる主文第一項記載の日から各支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので正当として認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官松村 恒)

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